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ふくしまの酒 NEW WAVE

NEW WAVE 03 U40 NEXT GENERATION
有賀醸造 有賀裕二郎

理系の頭脳が醸す、
既成概念にとらわれない酒

有賀裕二郎(常務・杜氏)

1984年生まれ。東北大学生命科学研究科修士課程修了、博士課程進学後、2011年、有賀醸造合資会社に入社。2012年より杜氏。

研究者の道から
家業の酒造りへ

福島県中通り南部に位置する白河市。豊かに広がる田園風景の中に、江戸時代後期創業の有賀醸造はある。杜氏として酒造りを取り仕切る有賀家次男の有賀裕二郎(ありが ゆうじろう)さんは、東北大学生命科学研究科の修士・博士課程で免疫の研究をしていたところ、東日本大震災をきっかけに蔵に戻り、一から酒造りを始めたという異色の経歴の持ち主だ。
「もともと蔵を継ごうとは思っていなくて、海外留学をして研究者の道に進むか、地元に戻って研究を生かした仕事に就くことを考えていました。震災があった時は、とにかく地元に対して今の自分に何かできることがないだろうか、という思いでいっぱいでした」
震災で傷ついた地元の人たちを少しでもよろこばせるような酒を造りたい……そんな思いから、県の清酒アカデミー職業能力開発校で酒造りを学び、杜氏の道へ踏み出したのだ。
有賀醸造は、国内でも珍しいマッコリを主軸とした蔵としても知られていたが、これに加えて裕二郎さんは、かつて蔵で造っていた普通酒「陣屋」を復活させようと考えた。「陣屋はリーズナブルな価格の普通酒として地元の旅館や飲食店に卸していた酒。これを地元の米と麹を使ってアップデートしよう」。その際、大学時代に培った研究室での実験手法やデータ分析のノウハウが、米の吸水率の計算や整麹室の温度管理などに生かされた。

既成概念にとらわれない
醸造の可能性を探求

震災から10年が経ち、裕二郎さんとともに蔵も進化してきたが、「まだ10年、というのが実感です。自分なりに積み上げてきた酒造りの技術力をベースに、これからは醸造の常識にとらわれずにさまざまなチャレンジをしていきたい。その根底にあるのは地域の特性を生かした酒造りです。白河の水はやや硬めの中硬水ですが、これを生かしたドライな味わいの酒を目指しています。また、キャンプにふさわしい微発泡の酒や食中酒に適した酸が強い酒など、さまざまな方向性を模索しているところです」。
彼の既成概念にとらわれない酒造りが垣間見える銘柄として、「理系兄弟」というユニークな酒もある。裕二郎さんの兄で専務の一裕さんも理系出身であることから、東京の酒屋の企画として生まれた酒だが、裕二郎さんは「面白い」とその話に乗った。「新しいお客さんに有賀醸造を知ってもらうためにも、ファンを増やしていくきっかけはいろいろあっていい」 。 培った技を土台に、新たな醸造の可能性を探求する旅は、まだはじまったばかりだ。

洗米、浸漬を終えた米を大釜で蒸す蒸米の工程。冷気を帯びた早朝の蔵にもうもうと白い煙が立ち上る

蒸し上がった米の熱をとるための放冷作業。ムラやばらつきがないよう手作業で均一に酒米を冷ましていく

麹、蒸米、水を加えて発酵させることで日本酒の元となる醪(もろみ)が生まれる。繰り返し攪拌する「櫂入れ」の作業で醪の温度を安定させていく

醪を、板と濾過布があわさった写真の白い部分に注入し、横から圧力をかけてしぼっていく、「ヤブタ式」の上槽作業。この工程で酒と酒粕が分離される

左から、米や麹の使い方で新たな味を試みる「生粋左馬 純米吟醸」、キレのある味わいが食中酒にふさわしい最もベーシックな「陣屋 特別純米」、米だけで仕込み、加熱殺菌せず生のまま絞った人気の「虎マッコリ」

CHANGE_最大の転機は?

やはり2011年の東日本大震災です。震災が起こらなければ、まったく違う人生を歩んでいたと思います。研究職という10年、20年先を見すえた仕事よりも、今この時に自分に何ができるのかを考えるきっかけになりました。

PERSON_影響を受けた人は?

酒づくりに関しては清酒アカデミー職業能力開発校の鈴木賢二先生です。「酒造りの基礎は大吟醸にある。それをきちんと学べば、あとはその応用で自分らしい個性のある酒を造ることができる」ことを教わりました。

FUTURE_あなたの未来像は?

有賀醸造は2024年で創業250年、会社設立100周年を迎えます。100年後にも、有賀の酒造りを支える周辺の豊かな自然環境を残していきたいし、蔵にはその役目があると思う。そうやって育まれた酒が世界中で楽しまれている姿を想像します。

名称
有賀醸造
創業
1774(安永3)年
住所
福島県白河市東釜子字本町96
電話
0248-34-2323
営業時間
9:00〜17:00(日・祝日休み)
その他
酒造り体験・酒蔵見学あり(要予約)
公式サイトへ
Text / Shin Sakurai Photo / Atsushi Ishihara

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